「レンズ」とガラス

顕微鏡
曲面のガラスに光を照射すると、ガラスと空気の屈折率の違いによって光の波面が曲がります。ガラスレンズを2枚も組み合わせると、小さなものを大きく拡大できます。この原理を利用して、16世紀末にオランダのヤンセン親子が最初の顕微鏡を作ったと考えられています。顕微鏡によって、人々はそれまで見ることの出来なかった微生物の存在に気付き、医学や生物学が大きく発展しました。
また、同じように、2枚のレンズの組み合わせで、遠くのもの観察することができるようになりました。ガリレイは1609年に望遠鏡を自作して天体観測を行いました。望遠鏡を使った観察実験に基づいて得られたデータを数学的に解析・論証する近代自然科学の方法を確立し、コペルニクスの地動説を支持する成果を得ました。
顕微鏡や望遠鏡そのものはノーベル賞が出来る前からあったものですが、その後のガラスレンズの材料の開発や、光学設計技術の発展に伴い、その性能は飛躍的に向上しました。現代では、レンズを組み合わせるだけでなく、ほかのさまざまな観測手段と組み合わせて、多くのノーベル賞に結び付いています。

「限外顕微鏡」


赤いガラスには金微粒子が分散しています。Richard Adolf Zsigmondy(ジグモンティ)はその観察のため、光散乱を利用した限外顕微鏡を発明します。限外顕微鏡は、生きた試料を観測できるうえ、通常の顕微鏡より小さなものまで見ることができ、その後の生化学や細菌学の発展に寄与しました。「限外顕微鏡の発明とそれを用いたコロイドの一連の研究」の功績により、Zsigmondyは1925年にノーベル賞化学賞を受賞しました。

「位相差顕微鏡」


光の位相(波の山や谷の状態)は、透過する試料の屈折率に応じて変化を受けます。位相差顕微鏡は微小な屈折率の差を見ることができる顕微鏡です。通常の顕微鏡で透明な試料を観察するには、着色などの処理が必要でしたが、位相差顕微鏡の発明により容易になりました。Frederik ('Fritz') Zernike(ゼルニケ)は「位相差顕微鏡の発明」により、1953年にノーベル物理学賞を受賞しました。

「超高解像度の蛍光顕微鏡」


従来の顕微鏡では、光の波長程度より小さいものを明瞭に観察することはできませんでした。高解像度の蛍光顕微鏡は、タンパク質に蛍光する分子を結合させ、巧妙な方法で観測対象だけの蛍光を取り出すことで、回折限界を超える解像度を実現することができました。2014年に、この蛍光顕微鏡を開発したStefan Hell(ヘル)、Eric Betzig(ベツィグ)、William Moerner(モーナー) の3名に対し2014年「超高解像度の蛍光顕微鏡の開発」としてノーベル化学賞が与えられました。

「太陽系の外」とガラス


我々の太陽系の外にある惑星が、初めて確認されたのは1995年。受賞者の二人は、フランスの天文台にある口径1.93 m の反射望遠鏡を用い、視線速度法という巧妙な方法で「ペガスス座51番星」という恒星に木星の半分ぐらいの質量を持つ惑星があることがわかりました。反射望遠鏡に使われている反射鏡には、熱による膨張を抑えた低膨張ガラスが使われています。2019年、「太陽型恒星を周回する太陽系外惑星の発見」によってMichel Mayor(マイヨール)、 Didier Queloz(ケロー)は、ノーベル物理学賞を受賞しました。